入会説明などで「いつから始めたらいいですか?」とときどき訊かれるのですが、答えは決まっています。「なるべく早く始めましょう」以外に選択肢はありません。

「そりゃ塾の側から見れば早く始めたほうが授業料とれるから、そうなるでしょう」と思われるかもしれませんが、そういう利益的な話は抜きにしても、できるだけ早く始めたほうが良いです。

 

私が考えるに、「いつから始めたらいいのか」という問いは、受験勉強を単純作業と同一視する誤謬から生じるものです。

たとえば、折り紙の鶴を折る作業を考えてみましょう。来年の1月14日までに10000羽の鶴を折って納品するという仕事を引き受けました。試しにやってみると、1日で約80羽を折れる。ということは、125日あれば間に合う。すると、今年の9月から始めればいいかなという計算になります。到達目標が予め数値的に決まっており、そこまでにやるべきことが完全に決まっている作業であれば、こういう計算ができます。ですから「いつから始めたらいいのか」という問いに意味があります。

しかし、これが、できる限り美しい折り鶴を折って来年の1月14日に納品するという仕事だとどうでしょうか。しかも、この仕事を引き受けた人は自分以外にもたくさんおり、その中で最も良い作品ひとつだけが選ばれ、その作者ひとりにのみ報酬が支払われる、そんな仕事です。この状況では、「○月○日から始めたらいい」なんてことは言えないでしょう。

「できる限り美しい」といわれていますから、このくらいのペースでやっていけば終わるという計画がたてられません。才能のある人であれば、もしかしたら、折り始めて100羽目くらいで納得のいく作品ができるかもしれませんが、才能がなければ10000羽折っても全然ダメかもしれません。

加えて、ライバルの存在があります。他の人たちは今から1か月後に作品づくりに取りかかるかもしれませんが、1か月前からすでに始めている人もいるかもしれません。すでに出遅れた状態で「いつから始めたらいいのか」なんてことを考えている人を見たら、誰だって「今すぐ始めなさい」と言いたくなるはずです。才能があって100羽程度で納得のいく作品がつくれた人だって、もっと才能があってもっとたくさんの作品をつくった人には負けるでしょう。

受験勉強は、できる限り美しい折り鶴を折って来年の1月14日に納品するという仕事と同じです。人それぞれ才能の差がありますし、大学受験ともなると、今まで生きてきた18年くらいの蓄積の差が如実に現れます。受験勉強を入試直前の一年間の勉強のことだと勘違いしている人がたまにいますが、全くそんなことはありません。小学校やそれ以前から勉強は始まっているのであり、スタートラインは皆一緒なんていうのは幻想です。大学受験に向けた勉強に限って言っても、中高一貫校の生徒であれば60か月も前から勉強を始めているわけです。ライバルは1か月前どころか、数年前に勉強を始めているわけで、そんな状況で「いつから始めたいいのか」なんて言っている場合ではありません。